世界一嫌いなアイドル
2年前、大好きな推しメンと秋葉原で初めて会いました。
推しメンは少し不器用で、何か失敗する度に舞台上で一人落ち込んでは俯いて下唇を噛むような子でした。
そしてそんな推しメンの隣には、いつも対照的なほどに笑顔の眩しいあの子がいました。
何もかも未経験だった推しメンが当初苦戦していた色んな壁も、気付くとあの子は次々と超えていきました。
歌もダンスも会話も笑顔も、全てがキラキラしていたあの子と、最初は全部がぎこちなかった推しメン。
そんな2人を見ているうちに、推しメンに感情移入した僕は、少しずつあの子を妬むようになりました。
嫉妬するようになりました。
成功しようと失敗しようと、過程が全て絵になって、自然と人に愛されるあの子に嫉妬しました。
推しメンにはできなかった、「私を愛してください」という真っ直ぐな感情表現ができるあの子を見ていると、ひたすら羨ましくて、悔しくて、僻んでしまいました。
推しメンが好きだからこそ、推しメンと仲が良くて、いつも隣にいたあの子に嫉妬しました。
「なんで推しメンじゃないんだろう」
「なんであの子ばかりが愛されるんだろう」
微笑ましい2ショットを見ながら、内心、常に悔しさがありました。
他人の僕が悔しくなるのも変だけど、理由はどうあれ、彼女はそれほどまでに目につく存在でした。
でもその後、推しメンは腐らず努力と工夫を重ねて、少しずつ自分の個性を手に入れていきました。
ただ今思うとそれは、あの時あの子の隣に立っていたからこそだと思います。
キラキラ光る道を歩んでいたあの子を隣で見ていた推しメンだからこそ、人とは違う自分なりの道を進んでいく強さが養えたのだと思います。
だから、今は本当にあの子に感謝しているし、「あの時推しメンの隣にいてくれてありがとう」、「ずっと嫉妬できる存在で居続けてくれてありがとう」と思っています。
その後、2人が別々のグループに入った時、「推しメンがあのグループに肩を並べるまでは、なるべく生であの子やあのグループを見ないようにしよう。あの子と話さないようにしよう」と自分の中で変なルールを決めました。
今では、変に意固地になっていてごめんなさいと謝りたいです。
ただ、あの子のおかげで強くなれた推しメンが、あの子に貰った強さで、あの子を超える瞬間を一目でいいから見たかったです。
推しメンが推しメンらしいやり方で、あの子に勝つ光景を見たかったです。
でもそれももう叶いません。
今日、あなたは最高にズルい勝ち逃げをします。
これで推しメンは一生あなたに勝てなくなってしまいます。
改めてあなたは、やっぱり僕にとって世界一嫌いなアイドルでした。
僕や推しメンが必死に工夫して光を作っているのを横目に、通った道が自然と光っていくあなたが妬ましかったです。
でも、そんなあなたの存在を無視する事が一度もできなかったのは、きっと僕があなたのことを好きだったからだと思います。
本当は推しメンがあなたを越すまで言う気はありませんでしたが、状況が変わったので悔しいけど言います。
あなたの綺麗な歌が好きでした。
どうか全てに諦めが付くような、美しい勝ち逃げを決めてください。
僕はあなたが大嫌いでした。
大嫌いで大好きでした。
原田珠々華さん、今まで本当にありがとうございました。
どうかずっと、幸せに生きてください。