読むドルヲタ落語「クソリプ指南(あくび指南)」
overture(出囃子)
(※元ネタ「あくび指南」のあらすじ(※動画)
何をやっても続かない飽き性の熊五郎。
これまで色んな習い事をかじってきたが何一つ物にならない。
それどころか、 歌を習えば植木が腐り、踊りを習えば空に円盤が現れるなど、何かしら芸を習う度に事件を引き起こしてきた。
そんな熊五郎が性懲りもなく新たな芸を習おうと指南所へ向かっていると、道で友人の八五郎に遭遇した。
「初めての場所に一人で行くのは心細いし、せっかくなので一緒に行こう」と八五郎を誘う熊五郎。
そんな熊五郎の噂を知っていた八五郎は、一度はその誘いを断るものの、習う内容が「あくび」と聞いて興味が湧き、見学だけならと付いていくことになった。
そうして二人が指南所へ着くと、先生との挨拶もほどほどにいざ稽古へ。
さっそく「丸一日船に揺られる乗客」になりきるという、初心者向けの『夏のあくび』から指導が始まったものの、その内容は、
「お~い…船頭さん、船を上手にやっておくれ…堀へ上がって、一杯やって…夜は遊郭へでも行って遊ぼうか…船もいいが、こう長く乗ってると…退屈で…退屈で…(フワァ~ァ)ならねぇ…」
という長いセリフのある難しいもの。
当然、不器用な熊五郎は四苦八苦する。
途中でセリフを忘れたり、上手くあくびが出なかったり、挙句には間違えてくしゃみが出てしまう始末。
その上熊五郎は「遊郭」のくだりになるといつも話が脱線してしまう。
こうして一向に上達する気配がない稽古を見ていた八五郎が一言、
「おいおい、いつまでくだらねぇことやってんだ。お前らは稽古してるからいいけどよぉ…ただ見てるだけの俺の身にもなってみろ…退屈で…退屈で…(フワァ~ァ)ならねぇ…」
それを見た先生は、
「あら?お連れさんの方がご器用だ」)
(※この物語はフィクションです。諸々ご了承の上でお楽しみください)
えぇ~、毎度いっぱいのお運びをありがとうございます。
久々の「ドルヲタ落語」になりますが、筆者や当ブログのことを最近知ってくださった皆様の中には、このフォーマットを始めてご覧になる方もいらっしゃるかもしれませんネ。
しかし、何てことは御座いません。
言ってしまえばいつも通りの悪ふざけ。
伝統芸能の威光を隠れ蓑に、筆者が安全な場所から言いたいことを言うだけの定期的に出る悪い発作のようなモンです。
特に予備知識などを要することもないので、力を抜いて気楽に読んでいただければありがたいです。
えぇ~、話は変わりますが、
つい先日、怒涛の如く年が明けたかと思えば、もうすでに二月も終わろうかという今日この頃、日々のんべんだらりと暮らしている私ながら、『光陰矢の如し』という言葉が身に沁みる毎日でございます。
中でも特に、生まれながらにして『JCJSしか推せない!』という奇病を患った一部の界隈の皆様に置かれましては、推しが成長していくこの一分一秒の重み、厚み、尊さというものを、桜舞い散る季節を前にひしひしと感じていることでございましょう。
そんな一分一秒を、奇病を患っていない私なりに精いっぱい噛み締めながら、今日もこうして糞の役にも立たないネタブログを真面目に怠惰に書き綴っていきたいと思います。
さて、どれだけ年号が変わろうが、陽キャのキャス民がモイモイ言ってる間にひたすら無為を紡ぐのが陰キャを拗らせたはてブロ民の変わらぬ常。
既に身内ノリが出過ぎてうっすらスベり散らしているラジオブログの全責任を某相方に押し付けつつ、私はこうしてただ一人、券の丘で個チェキに酔うアチャーなヲタ活を引き続きstay nightしていく所存でございます(Heven’s Feelゎ神)
ただアレですね、いい歳こいてこうして一人ネットの海でアクアマンする以外に芸がないというのも、我ながらどうしたものかと思いますね。
昔から「芸は身を助く have Fun」と言うくらいですから、ひどく怠惰な私なりに、ブログで駄文を垂れ流したり、ライブの盛り時にファイボワイパーを咆哮する以外にも、何か真っ当な芸を磨かなければと思う今日この頃でございます。
しかしそんな芸ですが、中には『どんなに磨いてもしょうがない芸』というものもございます。
これから聞いていただくのは、そんな芸にまつわる下らない一席。
どうぞ肩の力の抜いて、最後までごゆるりとお付き合いいただければ幸いでございます。
・・・
飽き性に手足が生えたようなドルヲタの下腹(げばら)。
この下腹、各所で都合のいい事を言っては、数か月単位で現場を変え続けるどうしようもないKSDD。
推してるJCの反抗期が終わり、接触の塩加減が弱まったと思えば「〇〇ちゃんが大人になっちゃった…」とよく分からない病み方をして他界。
瞬時に別グループに乗り換えた先で、「一生〇〇ちゃんしか!」と新たな推しメンに鼻息を荒げた数週間後、お披露目公演で現れた新メンバーに一瞬で心を奪われると、その『グループ内推し変』というハイパーギルティは流れるように元推しに感づかれ、特典会中に背筋の凍る視線を向けられて半分チビりつつ逃げ去るように他界。
それでも懲りずに再度新天地を見つけて通いだすと、今度は前回の反省を踏まえ、しっかり心が決まるまで安易な『しゅきしゅき発言』を控えながら慎重に推しメンを選定した下腹。
そうして辿り着いた新たな推しメンも、推し始めて間もなく若いイケメンのヲタクが推し被りに付いたことから、器の小さい下腹は嫉妬に狂って即他界。
そしてとうとう限界極まる地下現場まで堕ちた下腹は、偶然行った対バンで慣れない地下特有の熱量に当てられ突然開花。
「このグループはアイドルシーンを変える!」と青天井のハイテンションで知り合いに吹聴するまでに入れ込み始め、日々ツーステの練習をしながら忠義溢れるヲタク活動に身を投じ始めるものの、当の推しグループはこれまで散々「このn人でのし上がるんだ!」的なエモいストーリー展開をウリにしていた癖に、気付くとオリジナルメンバーが次々と不審な脱退を遂げていく。
そんな流れに相当なダメージを受けつつも、散々知り合いに大きいことを言ってしまった手前そう簡単には引き下がれず、なんとか気持ちだけで現場に留まった下腹だったが、休む間もなく起こったヤン〇ャン狩りのイキり炎上が決め手となり、とうとうその精神は破綻した。
そうして下腹は言うまでもなくまた他界したばかりか、一時期とはいえその現場に通っていた事実がバッキバキの黒歴史になっただけでなく、一番キマっていた時期のテンションを知り合いに定期的に蒸し返されては酒の席でイジられるという地味に重い十字架を背負うこととなった。
しかしことヲタ活に関してだけは変に打たれ強い下腹。
何度壁にぶつかっても止まることなく走り続けるその姿は、さながらクソガキが狭い児童館内に解き放った暴れミ〇四駆のような微笑ましい趣があり、その限界ぶりは安全圏から静観を決め込むTLのヲタク達を人知れず楽しませるのであった。
そんな下腹がたまたま現場のなかった休日にある場所を目指して歩いていると、向かい側から見知った顔が現れた。
「おっ、誰かと思えば陽太郎じゃねぇの!」
『ゲッ!そういうお前は下腹じゃねぇか!』
幸か不幸か出くわしたのは、下腹のヲタ友の”陽太郎(ようたろう)”だった。
「「ゲッ」とは失礼だな。ようよう、最近の推しメン事情はどうだい?」
『おいおい、主現場が同じなのに「推しメン事情はどうだい?」もクソもないだろ』
このとおり、かつてはまぁまぁリアルに仲の悪かった二人だが、なんやかんやあって今は同じ現場に通っている。
そんな二人が現在応援しているグループとは、ライブの盛り上がりに合わせてヘドバンしながら蹴鞠(けまり)をプレイするパフォーマンスが特徴の、パンクロック平安貴族系アイドル「ケマリスパート」。
(※イメージ)
いわゆる推し被り同士だった前現場ではうっすらギスギスしてた二人だが、色々あってこのケマリスパート現場に落ち着いてからは幸い推しメンも分かれ、こうしてブログで浅くパロってネタにできるくらいにはその関係は修復したのであった。
『ふん、まったく分かりきったことを聞くんじゃねぇや。俺と推しメンの"三井マコ(みいまこ)ちゃん"なら年中無休で絶好調よ!なにせ『#みぃちゃんようちゃん』の仲だからな!』
そう言って陽太郎は誇らしげに上着を脱ぐと、その下からは当たり前のようにピンクの公式Tシャツが現れた。
Tシャツを買う前は「いやぁ~ピンクかぁ~着づらいなぁ~w」とか言ってたくせに、今となっては公式パーカーとセットで当たり前のように普段着として使っている陽太郎。実に良い客である。
『そんなお前は戸田ちゃんとどうなのよ?』
「俺かい?いや、それこそ決まってるじゃねぇか!期間こそ浅いながら、推し始めてからの数か月をすさまじい熱量で駆け抜けたこの俺が、”戸田ちゃん”こと推しメンの”戸田アカネちゃん”と上手くいってねぇはずがねぇじゃねぇか!イカれた企画まで立ち上げて戸田ちゃんに鬼アプローチした甲斐もあって、今や知り合い内でも『下腹=戸田ちゃんヲタ』は揺るがない共通認識だし、オメェみたいにムリヤリ専用ハッシュタグなんぞ作らなくても俺と戸田ちゃんの信頼関係は絶対なのさ」
『ほほう、言ってくれるね。ツアーラストの渋谷ワンマン大団円およびダイエット企画成功の後からしばらくツイートが無くなって、「もしやバーンアウト他界か?」とも疑われた下腹さんがそこまで長文でイキり散らしてくれるとは頼もしいねぇ』
「みなまで言うな。「短期間で気力も体力も使い果たし、しばらくSNS断って隠居してた上に、実はダイエット企画で一番痩せたのは僕の財布でした(ワラ)」なんぞ恥ずかしくて推しメンに言えるわけあるまい」
『なるほどねぇ。オメェのヲタ活も難儀なもんだね。イジって笑うつもりが同情してきたよ。まぁしかし、あれだけ人様を巻き込んだ甲斐あって、企画もキレイに終わったし、結果的には良かったじゃねぇか。(まぁ最終的な企画の着地が美談っぽくなりすぎて、ネタに生きてネタに死ぬネットコンテンツ系ヲタクとしては逆にスベってた感あったのがやや気になったけど、これ直接言ったら傷つくだろうから内心で思うだけにしておくか)』
「おう、ありがとな。カッコ内のパンチが強すぎて序盤の話が全く入ってこなかったけど感謝しておくよ。でもなぁ、やはりヲタクってのは欲深いもんで、俺はもっと戸田ちゃんに推されたくてなぁ」
『あれだけ良くしてもらった癖に、この期に及んで「もっと推されたい」なんてホントに欲張りだねぇ。だいたい推されたいったってどうするんだ?貧民のお前にはこれ以上積んだり、ましてやプレゼント貢いだりはムリだろ?』
「たしかにな。だからこそ俺は工夫するんだ。他のヲタクにはない一芸を身に付けて、ネット経由で戸田ちゃんにアピールしまくるんだよ」
『一芸ねぇ。オメェは定期的にそれを言いだすが、それなら過去に散々挑戦しては失敗してきたじゃねぇか。
よ~く思い出してみろ?以前Twitterで演奏動画を上げたヲタクが推しメンに引用リツイートでチヤホヤされてるのを見て、即行でエレキギターを買ってきたオメェはその後どうした?演奏以前にアンプの接続で苦戦したオメェはひたすら思い付きでガチャガチャやって、しまいにゃ閃光と共にアンプは爆発。近隣住民はパニックになり、地域新聞の一面に『怪奇!地デジ時代に約20年ぶりのポ〇ゴンフラッシュか!?』の見出しが踊ったな。
その後もオメェはまたもTwitterで、推しグループの曲を繋いだオリジナルMix音源を作ったヲタクが同じように推しメンにチヤホヤされてるのを見たな。それからすぐオメェはDJコントローラーを買ってきては、病的な暇さを生かして自宅で下手なDJプレイを一日中続けた。そうしてオメェが垂れ流し続けた爆音は町奉行にまで届き、偶然それを聞いた遠〇の金さんがビートに触発されたことで、それ以降の奉行裁判がフリースタイルバトル形式になったな。そこからヒップホップにドハマりして般若を聞き込んだ金さんは、罪人相手にクリティカルを連発。結果次から次へと罪人が送られてきた収監所は一気にキャパオーバーして治安も悪化。今じゃ関西会場のラ〇ア現場並に荒れてるらしいぞ。
それだけじゃ飽きたらずオメェは次にどうした?またまたTwitterで、今度は絵の上手いヲタクが上げた推しメンとの握手会レポ漫画を見たオメェは、これまたすーぐ影響されて秒でヨド〇シにペンタブ買いに行ったな。そうしてデジ絵の環境を整えたオメェは、早速自分も推しメンとの握手会レポ漫画を描き始めたが、肝心のオメェがコミュ障すぎるせいで、孤独の〇ルメ調のヲタクのセリフがほぼないモノローグ形式になったな。更に作風に引っ張られて絵のタッチまで孤〇のグルメに寄ってきたオメェのレポ漫画はついに公式に見つかって、なぜか題材になった推しメンがドラマのゲストにオファーされて松〇豊と共演を果たす、というシュール過ぎる奇跡を起こしたな。その珍事は一時は話題にはなったもののグループの動員増にはつながらず、結局三日坊主のオメェはすぐに飽きてレポ漫画もさっさと辞めちまったな。『恋人繋ぎ!そういうのもあるのか』じゃねぇんじゃ。
※イメージ
あ~あ、いっぱい喋って疲れちまったよ。
セリフ割り下手だな筆者。
ま、そんなことはいいか。
で、これだけの失敗を経てまだ何かやろうっていうのか?』
「ふん、ずいぶん俺のことに詳しいねぇ。なぁに、次はそう大仰な事をやろうってんじゃねぇ。今度のはシンプルかつ特別なやつだからな」
『特別?なにをやろうってんだい?』
「クソリプだよ」
「そうだ、あのクソリプだ。ドルヲタTLの華にして、悲劇と喜劇の人間交差点ことあのクソリプだ。で、そんなクソリプを学べる所がないかとネットで探していた時に渡りに船でヒットしたのがこれから行こうとしている『クソリプ指南所』ってわけよ。」
『よせよせ!何にせよオメェが変にやる気を出すと決まって珍事が起きるのはさっき散々説明しただろうが!だいたいお前は「自分のリプが知り合いのヲタクに読まれて笑われたらどうしよう…(キモ声)」みたいなしょうもない自意識過剰を理由に、ロクに推しメンにリプを送らねぇじゃねぇか。そのくせ遠征公演直後とかワンマン終わりみたいな「ベタなこと言うだけで100%キレイに収まって好感度も上がる」みたいな美味しいタイミングだけはしれっと140字フルに使って重たいリプ飛ばしやがって。普段しょうもないネタツイートは多い癖にあえてリプの数を絞ってるのは、ここぞという時に送る真面目リプのレア感を演出するための計算だろ?いやぁ~、あまりのいやらしさにドン引きを超えて頭が下がるね!』
「おいしれっと筆者の手口をバラすのはヤメロ!まぁいい。それよりよく聞け?そもそも俺たちは『ヲタクがアイドルに送るリプライ=クソリプ』と思考停止で決めつけているが、実はクソリプには大きく分けて2種類ある。送られたアイドル含め、見た人を楽しませる『光のクソリプ』と、見た人を不快にさせる『闇のクソリプ』だ。俺はこれから前者のスキルを磨いて『光のクソリプ師』になるんだ。」
『ほ~お、無い知恵絞って「光のクソリプ師」とはまた考えたね。しかし現実問題お前のクソリプを見るのは推しメンだけじゃねぇんだし、見る人によって様々な受け取り方になるのは目に見えてるだろ?もし推し被りの目にガチ恋リプなんぞ留まった日には、イベント後の夜道で襲われてリアルストリートファイトが始まるぞ。オメェにその準備ができてるのか?ちゃんと毎晩5000回パンチトレーニングやってるか?ホー〇ーランドやってるか?』
「うるっせぇわ!!!至近距離で煽り散らすな!!!!だがまぁ『同じクソリプでも見る人によって印象が異なる』って意見はもっともだな。たしかに100%善か悪に振り切ったクソリプなんてのは存在しねぇ。光と闇が入り混じったカオスでこそのクソリプだ。要するにシャインとダークでシャダーイクンみたいなもんだな」
『まったく推し運営に媚びる時のフットワークだけは大したモンだなオメェは。全盛期の具〇堅がハダシで逃げ出すぜ。まぁいい、そこまで言うんなら見せてもらおうか。その指南所とやらに通うだけで、オメェが言う「光のクソリプ師」になれるのか。普段あれだけ勿体ぶって日常リプの一つも送れないトゥシャイシャイボーイのオメェが、これから見る人全員を爆笑させる光のクソリプ量産マシンになれるのかどうか、耳クソ程度には興味が出てきた。特別に見学だけならついてってやるよ。』
「テメェ、よくもたった数行で人のSNSハードルを棒なし棒高跳び並に上げてくれたな。俺がケマリスパートのイベントに誘うまで推し現場を求めてさまよう亡霊ヲタだった癖に!もうやめだやめだ!!オメェなんかと芸の稽古になんざ行けるか!!!」
『おい、オメェそれ本気で言ってるのか?』
「いや本気で言ってたら一緒にラジオなんか録ってねぇわ!」
『・・・』
「・・・」
「『へへへッ!!!』」
そうしてクソ長いやり取りの末に結局2人で指南所に行くことになった下腹と陽太郎。
なんやかんやリトルトゥースの絆は深いようだった。
・・・
それから少しばかり歩いて、件のクソリプ指南所にたどり着いた二人。
「すいませ~ん!どなたかいらっしゃいますか~?」
入口に大きく「クソリプ」と書いた看板を見つけた下腹は、さっそく門を叩いてそう呼びかける。
それから程なくして、中から温和そうな老人が出てきた。
[はいはい、なんでございましょう?]
「すいません。いやね、そこの看板にも書いてあります「クソリプ」ってのを、ひとつ教えてもらいたいなぁと思って来たんですけども。」
[あぁ、稽古をご希望の方でしたか。よくぞいらっしゃいました。ささ、それでは中へどうぞ。]
「すいませんね、じゃあ失礼いたします。おっと、ちなみに芸を習いたいのは自分だけで、こいつはただの見学なんですが一緒に入ってもいいですかね?」
[えぇ、構いませんよ。無銭観覧の方も一緒にどうぞ]
『おい人をリリイベ専のピンチケみたいに言うな』
「まぁそう怒るなって。オメェは大人しく、どんどん上達する俺を見ときなっての。ささ、部屋にも着いたことだし、さっそくですが先生、私にクソリプをご教授いただけますでしょうか」
[よろしいでしょう。まず簡単な説明から入りますと、クソリプと一口に言っても色々な種類があります。王道のオジサンリプ、直球のセクハラ系、100%要らない知識を差し込むクソバイス系、誰も聞いていない個人情報を自己申告してくる「ちなみに俺は~」系、単に意味の分からないイミフ系…と、挙げればキリがないほどにヲタクのクソリプというのは多種多様でございます。そのためこうした系統別に加え、春夏秋冬の季節に沿った様々なクソリプを状況に応じて使いこなせるようになるには、決して一朝一夕ではいきません。]
「なるほど!やっぱりクソリプってのは奥が深いんだな!俄然燃えてきましたよ先生!」
そう言って目を輝かせる下腹。
対してそれを遠巻きに見る陽太郎は、
『ふん、何を張り切ってやがんだ。たかがクソリプ、何も考えずにパッと送っちまえばそれでおしまいじゃねぇか。』
と、冷めた様子。
そんな陽太郎に構うことなく、稽古は先へと進んでいく。
[お、やる気があっていいですね。ところであなた、今までクソリプを稽古したご経験はありますか?]
「いえ、これが初めてです」
[よろしい。では初心者向けの「推しの自撮りツイートへのクソリプ」から教えましょう。まず私が手本をやってみますから、よく見ててください。
状況は、やっと仕事の終わった金曜日。
汗を拭って帰宅して、ふとスマホを見ると一件の通知。
どうやら推しメンが上げた自撮りツイートの通知だと気付きます。
その通知をタップして、推しメンの素晴らしい自撮り写真を確認したら、すかさずこう言います。
「ふぅ~、平日現場が少ないのは辛いが、こうして今週も一山超えて、ようやく明日はイベントで〇〇ちゃんに会える。そんなタイミングでこの自撮りたぁ、実質私信もいいとこだね。他の現場もいいけれど、やっぱり俺には〇〇ちゃんだな。はぁ…〇〇ちゃん…好き///」
…と、こんなかんじですな。
なお、「〇〇ちゃん」には自分の推しメンの名前を入れてください。
ポイントは週末特有の疲労感をどう出すかという所と、「はぁ…〇〇ちゃん…好き///」というセリフをちょうど言い終わったタイミングで、同じフレーズをリプで飛ばすことです。このタイミングがキモになります。リプを送るのが発声より早過ぎても遅過ぎてもダメで、ちょうど言い終わった瞬間に送るからこそ、その時の感情が100%リプに乗り、より純度の高いクソリプが完成します。ぜひここを意識して実際にやってみてください。]
「ほほぉ、こいつぁ驚いた。クソリプにセリフがあるってのかぃ。しかもこんなに長いセリフとは夢にも思わなかった。そんで俺の場合は「〇〇ちゃん」のところが「戸田ちゃん」になるわけだな!まぁ考えるより物は試しだ。いっちょやってみるかい!
えぇ~、ゴホン!
「ふ、ふぅ~。へ、へ、平日現場が水曜日ぐらいにあると、週にハリが出て嬉しいネェ~」」
[いやいや、最初から間違えてますよ。何ですか?「平日現場が水曜ぐらいにあると嬉しい」って。そんな凡ヲタの一言日記みたいな意見はいいんですよ。いいですか?クソリプってのは何も送られる文章だけを指すんじゃありません。そんな駄文をしたためて、実際に推しメンに送るまでの過程のすべてを指すのです。なので上質なクソリプは、送るまでの情景をいかに表現するかが重要になってきます。さて、お分かりいただけたらもう一度、今度はセリフに忠実にやってみてください。]
「なるほどね。まさかクソリプ一つでここまで真剣にアドバイスを貰うたぁ思わなかった。これはより一層マジメにやらないと、ってなもんだね。
ん、ん~!ゴホゴホ!ゴホン!
「ふ、ふぅ~、へ、平日現場が、す、少ないのは辛いが、こ、こうして今週も一山超えて、よ、ようやく明日はイベントで、戸田ちゃんに会えるなぁ!そ、そんなタイミングでこの自撮りたぁ、こ、この自撮りたぁ…まぁ、少なくとも俺みたいな弱ヲタへの私信ではないだろうな…」」
[いやネガティブ!!なんでそこで後ろ向きになるんですか!?いいですか?実際のところ私信か私信じゃないかなんでどうでもいんです。ただ、「これは推しメンが自分に向けた私信だ!」と根拠のない自信を持つことで、ヲタクの背筋はピンと伸び、明るく前向きなヲタ活に繋がっていくんです。「”私”宛てだと”信”じる」と書いて「私信」なので、これはもう一種の自己暗示のようなもんです。いっそ振り切ってバカになるくらいの明るさでいいんです。さ、もう一度やってみてください。]
「いやぁ~、ついいつもの悲観グセが出ちまったね。さてさて、ポジティブに、前向きに…ね。よし!
えぇ~、ゴホン!
「ふ、ふぅ~、へ、平日現場が少ないのは辛いが、こ、こうして今週も一山超えて、よ、ようやく明日はイベントで戸田ちゃんに会える。そ、そんなタイミングでこの自撮りたぁ、じ、実質私信もいいところだね。ほ、他の現場もいいけれど…他の現場も…ん?他の現場?…ん~他の現場…といえば、まずは”意地コン”こと”意地のコンプライアンスガール”かね。あそこはたしかにレギュは高いが、それに見合うだけライブも曲もハイクオリティだしな。あとは最近だとナップザックガールズ(2)も熱いな。名物パフォーマンスの鼻リコーダーも、鼻フルート、鼻トロンボーンと少しずつ大きい楽器に進化していって、最終的に鼻チューバを成功させた時は感動で胸が熱くなったね。あと本家ヘロプロで気になるのはやっぱり”野武士ファクトリー”かな。迷走する糞事務所の大組閣の中で”追加メン”というカンフル剤もなくデビュー時からのオリメンだけでひたすら戦い続けているところに好感が持てるね。順調な後輩グループ達が自身を差し置いて優遇され続ける影で、それでも歯を食いしばって無言で外部対バンに繰り出すプライドと凄味が堪らねぇじゃねえの。そうそう、最近追加メン入ってこれからが楽しみって意味ではラジカル・ポンチメインからも目が離せな…」」
[いやいや、なにをひたすら喋り続けてるんですか!?あれだけネガっ気吐いてた癖に、他現場の話だと一気に前向きになるじゃないですか。いいですか?このクソリプは単推しヲタクが推しメンに対して限界マインドを拗らせることで成立するんです。あなた自身のヲタ気質がKSDDなのはいいですが、ここでは設定に忠実にやってください。さぁ、分かったらもう一度。]
「いやぁ~、普段から色んな方向にアンテナを張っていると、こういう時に変に喋り過ぎちまうから良くないね。
ま、セリフも少しずつ頭に入ってきたし、そろそろ華麗に決めてみせるから見ててくださいよ。
ん~、ゴホゴホ!ゴホン!
「ふぅ~、平日現場が少ないのは辛いが、こうして今週も一山超えて、ようやく明日はイベントで戸田ちゃんに会える。そんなタイミングでこの自撮りたぁ、実質私信もいいとこだね。他の現場もいいけれど、やっぱり俺には戸田ちゃんだな。はぁ…戸田ちゃん…す…す…スイパラいこ?」」
[いや女子!!!せっかく途中完璧だったのに最後女子!!!]
「いや、あの…ヒプマイコラボにつられてつい…やっぱ銃左と幻帝は安定してアツいなって…」
[いやとっくにヒプマイ振り切ってヒ腐マイ入ってるじゃないですか。どうせほぼ読まれない長文ネタブログだからって、普段ツイートしづらいネタを平然と差し込まないでください。そもそもドルヲタ向けのブログでこういうトガった2次元ネタ振るのはよくないでしょ。元ネタわかんなきゃ地獄を見るコースですよ?]
「いやぁ、何から何まで仰る通りで。
じゃ、気を取り直してもう一回…」
…と、粘り強いと言えば聞こえはいいが、何度やっても一向に上達の気配が見えない下腹。
一方その様子を推しメンの配信を見る片手間でぼんやり眺めていた陽太郎だったが、稽古が予想を超えて大幅に長引く中、キャスもShowroomも終わっていよいよ退屈になると、だんだん自分一人が蚊帳の外にいるこの状況に腹が立ってきた。
しだいに苛立ちは抑えきれなくなり、陽太郎は依然くだらない稽古に励む二人に向かって、大きな声で文句を言い始めた。
『おうおうおう!!!大の大人が2人して、いつまでくだらねぇ稽古つけてんだ!?やってるオメェらは夢中でふざけてて楽しいかもしれねぇけどなぁ、見てるこっちの身にもなってみろ?そりゃあもう退屈で、退屈で…』
\ピロ~ン/
『ん?』
そうして陽太郎が不満を爆発させていると、間に割って入るようにマヌケな通知音が一つ鳴った。
『お、なんだなんだ?って…あっ♡』
自身のスマホを確認すると、一瞬で表情筋がゆる〇るモになる陽太郎。
それもそのはず。先ほどの通知音は、推しメンの三井マコちゃんの自撮りツイートのアップを知らせるものだった。
すると先ほどまでの苛立ちもどこへやら。
すぐさま陽太郎の頬とTシャツは、揃って綺麗なピンク色となった。
次いで速やかにそのツイートをふぁぼった後、流れるようにリプを送る態勢に入った陽太郎は、まるで目の前に推しメンがいるかのように、スマホ相手に話しかけ始めた。
『ふぅ~、こうして土曜に推し現場がないのは寂しいが、今日も他現場に行かず支出を抑えて、ようやく明日はイベントでみぃちゃんに会える。そんなタイミングでこの自撮りたぁ、もはや私信に違いねぇ。他に現場はいくつあっても、今の俺にはみぃちゃんだけだな。はぁ…みぃちゃん…好き///』
と、言い終わると同時に絶妙なタイミングでリプを飛ばす陽太郎。
するとその様子を見ていた先生が一言。
[あら?お連れさんの方がご器用だ]
【終】