読むドルヲタ落語「チェキ蕎麦(時蕎麦)」

overture(出囃子)

 


出囃子 鞍馬獅子 柳家さん喬

 

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(※元ネタ「時蕎麦」のあらすじ

 

店主をおだてて油断させ、そばの勘定を上手くごまかした客と、その様子を物陰から見ていた別の男。

男はそれにえらく感心し、自分も真似して同じことをしようとするが…)

 

<文字数→約4000/読了目安→約7分>

 

え~、

いつの時代にもラクな商売ってのはねぇもんでございます。

 

特にアイドル物販なんてぇと、

話の厄介な客、あからさまな密着狙いの客、突然説教をしてくる客、ろくに面識もないのになぜか彼氏ヅラの客…と、そのクソさのバラエティも実に多種多様でございます。

 

さてそんなアイドル物販に関してとある日のこと。

なにやら歌は無しで特典会だけをやる…なんていう珍妙な催しが九段下の方で開かれる、という噂を小耳に挟んだある男。

俗な目的にばかり行動力を発揮する分かりやすいヲタクの特性そのままに、男は一目散に会場へ。

そして到着するやいなや、即座に目についた物販に飛び込んだのでありました。

 

「おう旦那!オレ一人なんだが今いけるかい?」

『えぇ、もちろんでございます。』

およそ実生活では発揮したことのない社交性でもって物販スタッフに話しかける。

それもそのはず。

三度の飯よりチェキが大好きなこの男。

【宵越しの盤は積まない】を座右の銘とし、こと美少女との2チェキ撮影に関しては食費を削るまでのストイックさを見せるのが常であった。

 

「おたくのグループは長らくネットで追ってたんだがね、いやはやこうして実際に物販にくるのは初めてってなもんで、それなりに接触慣れしてるはずの俺も、恥ずかしながら結構興奮してるね」

『さようですか。ちなみにご所望はなにを?あ、よろしければこちらどうぞ。』

「お、気が利くねぇ。この物販メニューが書いたプレートが一枚あるかどうかでご新規さんへのレギュレーションの分かりやすさが比にならないからねぇ。店頭に置くものとは別で、客内で回せるものをもう一枚作っておくってなぁ、大層気配りが行き届いてるねぇ。じゃ、この<そば2チェキ>ってのを一枚貰おうか」

『お褒めにあずかり光栄です。はい、そば2チェキですね。こちら(貴方のそばで蕎麦食ってチェキ)をコンセプトに、蕎麦どんぶりをはさんだ密着2チェキになります。料金は1.5kでアイドルからの幸せ・笑顔先払いで、お客様のお代後払いとなっております』

「おぉいいねぇ、会議で出たダジャレがそのまま勢いで企画になっちゃったみたいな見切り発車感がTHE・半地下現場って感じでそそるねぇ。なになに、幸せ・笑顔先払いのお代後払い、さしづめ現金尽きたヲタクは門前払いってなとこかね。おたくの物販にクレカ環境がなくて本当によかったよ。」

『いえいえそんな…あ、それではご指名のメンバーが空いたようなので撮影スペースにご案内しますね。こちらへどうぞ。』

「お、列の捌きがテキパキしてていいねぇ。こちとら江戸っ子で気が短いってなもんでぇ、回転が良い特典会ってなぁ参加していて気持ちがいいねぇ。それでいて剥がしがキツイわけでもない。こいつぁ素晴らしい塩梅だ。運営側の努力が見えるね」

『いやぁ、お客さん本当に褒め上手ですねぇ。それでは最後に握手もありますので、事前にこちらをお使いください』

「いやぁ~、この消毒アルコール!これがあるかないかで随分その物販への印象が変わるからねぇ。特にこれからの時期の接触なんてなぁお互いに汗だくで不衛生になりがちだから、こういう配慮はうれしいねぇ。さて、それじゃあひとつ接触といきますかね」

アイドル《こんにちは~!来てくれてありがとう~!(高音)》

「お、この衣装!随分ハイカラな仕立てで華やかだねぇ。そうそう、アイドルの衣装ってなぁこうでなくっちゃな!おまけに運営の指導がしっかりしてるからちゃんと挨拶もできて礼儀がなってるねぇ!どんなにスキルがあっても最低限の礼儀ができてないとガッカリするからねぇ!こいつぁ話してて清々しいや!そんでもって細身で可愛いねぇ!お、1.5kでサインも書いてくれるのかい?こいつぁ嬉しいや。んん?名前まで書いてくれるのかい?こりゃ認知厨にはたまらないねぇ。おまけに字もキレイだし…お!裏面メッセージまで入れてくれるのかい!これがまた嬉しいんだよなぁ!表面を見てひとしきりデレデレした後、ふとおもむろに裏を見てみると黒地に黒の文字でなにやら書いてあることに気付くんだよねぇ!この”二人だけの秘密”感にヲタクがまんまと釣られるのが2チェキの常ってなもんよ!」

《はい!今日はありがとう!また来てね~!バイバ~イ!(高音)》

 

 

「いやぁ~、いいチェキを撮らせてもらったよ~!おたくの所のメンバーは本当にいい子だねぇ」

『いえいえ、楽しんでいただけたようでなによりでございます。よければ、追加で別の子との撮影はいかがですか?』

「いやぁ悪いがそれは遠慮させてもらうわ、なにせさっき別の物販で酷い接触事故を起こしてきちまってね、財布もメンタルも今日はここらが潮時ってなもんよ。じゃ、お勘定させてもらおうか、いくらでぃ?」

『へい、1,500円でございます。』

「あいよ、釣りを渡しづらい端数の料金設定がいかにも駆け出しって感じだねぇ。おっ…すまねぇが小銭しかねぇから手ぇ出してくんな、数えながら乗せてくぜ。えぇ~…一、二、三、四、五、六、七、八、…あ、いまメンバー何人だい?」

『新メン入って九人です』

「…十、十一、十二、十三、十四、十五…と!まいどっ!」

 

男はそう言って颯爽と立ち去って行った。

かくしてこの男、上手く100円をちょろまかしたのであった。

そしてその一部始終を物陰から見ていた別の男、下腹(ゲバラ)。

 

下「あんちくしょう、上手くやりやがったなぁ。さんざベラベラ褒めまくってたのも、スタッフの意識を散らすための作戦ってなわけかい。そんでお代をごまかした後すぐ逃げられるように嘘までついて…こいつぁ相当な策士だよ。まぁ、それはさておき…」

 

たかが100円されど100円。

この珍技を5回成功させれば1D代1回分、10回で盤一枚、30回で対バンイベのチケ一枚、50回やればあの虹〇ンチェキですらその手中に落ちる計算だ。

 

「しゃあねぇ、ものは試しだ。いっちょやってみるかい」

 

かくしてこの下腹、今しがた見ただけの手口を見様見真似で実践しようと決意した。

 

「さてそれはそうとどこでやるかねぇ…問題は代金後払いの所を狙うってことだよなぁ。せっかくごまかしてもその後で悠長にチェキ撮ってたんじゃ途中で気付かれるかもしれねぇ。撮って、ちょろまかして、離脱。これが理想だ」

 

そう一人ブツブツ言いながら、会場内を虎視眈々と練り歩く。

もはや自分でも何と戦っているのかわからない下腹の耳には、吉〇豪のトークショーなど入る余地はなかった。

 

「お、他にも代金後払いの所があるじゃねぇか!どれどれ、いっちょやってみるかね…おい旦那!俺一人なんだが今チェキ撮れるかい?」

『あ?』

「お、おぉ…かなり独特な接客態度だねぇ、ま、まぁいいや。それじゃレギュを教えてもらおうか。え~っと、物販メニューのプレートは…」

『いや、そういうのないから。この机の上に紙あるから、勝手に見て』

「そ、そうかい…まぁ、これだといざライブ見て興味持った新規さんが物販来ても、机に張り付いてるおまいつをかき分けてメニュー見に行かなきゃいけない分、定着までの敷居が高いねぇ」

『あ、そういうの、よくわかんねぇから。で、どうすんの?チェキ?』

「あ、じゃあ2チェキ一枚で…うん…」

『はいよ、じゃ、そこ並んで待ってて』

「…ん~、ま、まぁいいや!問題なのは導入じゃなくて中身だ!ま、あのスタッフも口は悪いがきっと撮影もスムーズで列の捌きも早く……ねぇな…、おいおいいつまで待たせるんだよ…所要時間読みづらい特典会は並行物販で後回しにされる一方だってぇのに…お、やっとか!さてさて、それじゃ接触の前に消毒アルコールでも借りて…」

『あ、そういうのねぇから、サ〇デーなら置いてるけど』

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「いや気の遣い方が爽やかじゃねぇなぁ、ヲタク何だと思ってんだ、俺たちゃ汚物か…まぁいいや、肝心なのはメンと過ごす甘い時間。ほら、こうして見ると衣装もすごく華やかに…華やかに…み、見えねぇな…なんだその茶色いシミは?」

アイドル《ん、これ?オイスターソース》

「おぉ…衣装に汚れ付けてる時点でおかしいのに、醤油でもソースでもなく中間取ってオイスターソースって辺りが何食ってたか読めなくて謎に鼻に付くねぇ、まぁいいや、きっとクリーニングに出す暇もないくらい過密スケジュールで頑張ってるんだろうな。努力してる分、さぞかし礼儀もしっかりして…」

《ていうかオッサン着てる服ダサくない?wヤバw超ウケるんだけどw》

「まったくできてないな…いきなりdisから入って受けるのはフリースタイルバトルだけだよ…まぁいいや。仮に多少ワガママで傍若無人だとしてもね、可愛かったらオールオーケーじゃないの、ほらよく見たら体もスリムで…」

《てか今月週5で次郎食ってたらウエスト鬼太くなったんだけどwウケるwマネージャー、〇イザップのCMオファー取って来いよ》

「うん…お前なんでアイドルやってんの?まぁいいや、多少見た目と性格に難があってもね、最後に撮ったチェキにイイ感じのサインを貰えれば全部美しい思い出になるってもんよ、こういう子に限って、きっと見た目に反して繊細でキレイな文字を…」

《あ、ミスった、まぁいいわ。あれ今日って何日だっけ?ってか日付とかテキトーでいい?》

「うーわ字きたな…全体的にミミズのサンバじゃねぇか、なんて書いてあるかわからねぇよ…もういいわお前…じゃあな」

《おう、服ダサいオッサンじゃあな!》

 

 

「にしてもひでぇ目に遭ったな…」

『あ、お客さん、まだ剥がしてないのにもういいの?ってか追加で撮る?』

「いやもうあの子と話したくないから自分から剥がれたわ。あとさっき別のところの接触で事故ってきたからもう…というかここでも相当事故ったけどな…とりあえず色々もううんざりだから追加はいいわ。とにかくさっさと勘定してくれ。」

『あ、うん、わかった。んーと、1500円ね』

「よしきた。すまねぇが小銭しかねぇから手ぇ出してくれ、数えながら乗せてくぜ。えぇ~…一、二、三、四、五、六、七、八…あ、いまメンバー何人だい?

『先週初期メンが一斉に文春砲喰らったんで今三人っすね』

「四、五、六、七…」

 

【終】

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