シングルボーイ下位時代

しょっぱいドルヲタが細々と喋ります

僕と親友の仲を引き裂いた”ある女”の話

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人生で一度だけ友人に掴みかかった事がある。 

 

あれは(ピー)年前、金も女も学もなく、時間とやり場のない情熱だけが無限にあった高校時代。

 

当時アニヲタと声優ヲタの香ばしさだけを抽出して掛け合わせたサラブレッド二元豚の名を欲しいままにしていたゲバラ少年。

 

レモンが弾ける気配が微塵もしなかった17歳の日々。

 

リア充達の好奇の目線を遮るように伸ばした前髪。

それはさながら鬼太郎であり、当然スクールカーストも下下下の下。

 

そんな教室の隅で三角コーナの生ゴミlikeな腐臭を漂わせていた当時の僕にも、かけがえのない友がいた。

 

仮に名前をAとしよう。

端的に言ってAはキモヲタだった。

 

世間的に見てキモヲタの部類に入る当時の僕が、奴を見て何の躊躇いもなく「キwモwヲwタw」と言うくらいにはAはキモヲタだった。

小太りで声が高く、ゾンビ映画に出てくる最初に死ぬクラスメイト役の才能にピンポイントで恵まれていた。

 

そんなAの二次元への愛は凄かった。

否、キモかった。

 

そして絶妙にヤバさのベクトルこそ違いながらも、世間の爪弾きもの同士、僕等は出会ってすぐに親しくなった。

 

ちなみにAの家は裕福だったので、毎週のようにレモンの弾けない友人たちと入り浸った。

 

集まっても何をするでもなく、アニメの話に花を咲かせ、時にネットに興じ、交代で東方プロジェクトをプレイしながらお互いをはやし立てる。

世間から見たら極めてキモい、そんな日々が幸せだった。

しかしそんな平穏も長くは続かなかった。

 

その後「ウホっ♂男だらけのお泊り大会」を通じてついに寝食すら共にし、いよいよ染色体が一個違っていたら色々危なかった次元にまで深まった僕等の仲は、ある女により突如引き裂かれた。

 

その女、名を「間桐桜(まとうさくら)」といった。

 

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桜は16歳で、当時の僕等より一つ年下だった。

桜は澄んだ綺麗な声をしていた。

桜のCVは下屋則子さんだった。

桜は大人しく清楚な性格ながら衣服の下のボディラインは全く大人しくないという、まるでキモヲタの欲望を絵に描いたような女だった。

というか絵に描いた女だった。

そしてCVは下屋則子さんだった。

 

当時の僕とAは桜の出演するアニメ・ゲーム作品「Fate/stay night(フェイトステイナイト)」シリーズにバキバキに夢中であり、一時期は暇さえあればFateの話をしていた。

 

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(※ちなみにこの「Fate/stay night」は、願いを叶える「聖杯」というアイテムを巡って7人の魔術師が歴史や神話の英雄たちをパートナーにサバイバルバトルを繰り広げる話です。気になった人向けに詳細は文末で紹介しますが、「アニメとかよくわかんねーわ」って人もとりあえず雰囲気でついてきてください)

 

しかしこのFateの話となると、僕とAはとにかくそりが合わなかった。

作中で引用されている歴史や神話の元ネタをかき集めて得意気に語り悦に浸る「ソース周回型ヲタク」のAと、目で見て耳で聞き心臓で感じた衝動から二次的な妄想を無限に膨らませる「イマジネーション型ヲタク」の僕の話は常に平行線だった。

もはや二人とも自分の話をしたいだけの状態。

配慮という概念の存在しない世界。

互いに相手のターンではマンガを読みながら片手間で話を聞いていた。

ただ、気の置けない関係だからこそ成り立つそんな無遠慮さが当時の僕等には心地よかった。

しかしある日、この2人の男が桜を巡って初めて正面からぶつかることになる。

きっかけはある日のAの発言。

彼はいつも通りFateの話をしながら、何の気なしにサラっとこう言った。

 

「でもな~、桜はビッ〇だからなぁ、」

 

ーブチッー

 

こめかみから聞き慣れない音がした。

「おい待てA、今なんて言った?」

 

(※言い忘れていたが桜の家系はやや複雑で、彼女にはここでは若干書きづらいハードな幼少期を過ごした過去があった。詳しく言うとネタバレになるので雑に濁すが家の事情で仕方なく幼いころからそれはまぁ過酷な生活を強いられていた訳で、それを細かく描写し始めるとネタブログとしての陽気さを保てないのでザックリ察して欲しい。かしこ。)

 

話を戻します。

 

つまり、ちょっと怪しい方法で魔術の実験を繰り返していた家系に生まれた桜は、本意でないながらも仕方なくその暗い日々に耐えていた時期があった。

 

そこに先のAの発言である。

 

僕の体は考えるより先に動き、気付くとAの胸倉を掴みながらこう叫んでいた、

 

「テメェに桜の何が分かるんだ!!!!!」

 

我ながら書いていてキツイものがある。

 

ただ僕にとって桜は「幸せになって欲しいキャラ」の筆頭であった。

いわゆるアニメブーム黎明期によく言われていた『〇〇は俺の嫁』的な、『自分対キャラ』の非現実的な恋愛感情とはまた違い、どちらかというと物影から見守っていたいような、彼女個人の幸せな結末をつい望んでしまうような、そんなキャラだった。

 

こうして今改めて考えてみると、この感情はどちらかというとドルヲタの「推し」的な感情に近いのかもしれない。

 

とにかくそうした経緯で、当時まだ存在していない言葉ながら、確実に高校生当時の僕の『推しメン』であった桜に対し、不意に浴びせられたAからの罵倒。

 

こうして虫も殺さないような大人しい僕が生まれて初めて「他人の胸倉を掴む」という行為に出たがわけだが当然ながら案の定の大苦戦、都合3~4回はモタモタと掴み直してAのTシャツの襟周りはゆるやかに伸びていった。

 

もとより夜道で光る他人の家のサーチライトにもビビり散らすほどノミ心臓のゲバラだが、持ち前の身内弁慶とライトノベル仕入れた知っている限りの汚い言葉を用いて精一杯の口撃を開始した。

 

「いいか?お前ごときが桜のこと知った口で語るんじぇねぇぞ?お前に桜がどんな気持ちであの幼少期からの日々を耐えてきた先でやっと士郎(主人公)と出会えた事でどれだけ人生が明るく開けたか分かるか?お前みたいな安易に幼女枠に収まる思考停止型のロリコンは一生『イリヤたんprpr』とか言ってろ!おは幼女ロリこんにちはペドフィリわんこそばとか毎日言ってろクソが!」

 

『お前黙って聞いてりゃ随分言ってくれんじゃねぇか!俺がロリコンかどうかとかじゃなく世界共通の真理としてJKなんてとっくにBBAなんだよ!それに事実を言って何が悪い!お前だって桜ルート完走して内容知ってんだろ?見てねぇ聞いてねぇ興奮してねぇとは言わせねぇぞ?お前みたいな善人ぶるヲタクが一番しょうもねぇんだよ!』

 

「なんだとテメコラ!もうお前かえれ」

 

『は?何言ってんのお前、ココ俺んちだよバーカ』

 

「いや家じゃなくて土に還れ」

 

『あ?』

 

と言葉ばかりは威勢がいいが、互いにまったく手が出ない。

それもそのはず、双方クラスの隅っこの三角コーナーで腐臭を放つ生ゴミ系男子だったゲバラとAは当然ケンカなど生涯一度もしたことがなく、人の殴り方など元より知る由もなかった。

 

そのため両者弱過ぎて決着の付かない泥仕合ラップバトルのような罵り合いはその後もズルズル続いた。

 

そして互いを罵り合いながらも僕とAは、次第に薄々勘づき始めていた。

このやり取りは不毛だと。

時間と体力の無駄遣いだと。

 

この広い世界の中で、人に与えられた時間は平等である。

誰かを笑わせても1分。

誰かを悲しませても同じ1分。

道端の花の美しさに心震わせても1分。

モテないヲタク同士で存在しない女を巡って口論になっても同じ1分。

恵まれない国の子供たちを想って涙を流しても1分。

かつて一緒に汗を流しながらアニメイト本店の長い階段を昇った日々を忘れ、実際には居もしない女の話で朝まで生テレビより熱いテンションで口喧嘩をしても1分。

 

考えてみればこんなに悲しいことは無い。

同じ時間に違う場所では、美男と美女がデートをしているかもしれない中、マンガと同人誌と二次キャラ抱き枕の散乱した部屋でブサイク二人が罵り合っている。

こんなに切ない対比はない。

 

脳内BGMの「and I love you(♪Mr.Children)」に合わせて、罵り合うブサイク2人と愛し合う美男美女の対照的過ぎる風景がスロー映像で浮かんでくるようだった。

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傷つけ合う為じゃなく

僕らは出会ったって言い切れるかなぁ?

 

そう。きっと僕らはこうして傷つけ合う為に出会ったわけではなかったし、きっと桜も僕らを傷つけ合わせる為にこの世に生み出された訳ではなかったはずだ。

 

口ベタでシャイで内向的で、好きな物を通じてしか人と仲良くなれない。

きっと桜は、そんな歪なキモヲタたちを繋ぐ架け橋になってくれる存在であったはずだ。

 

なのにどうしてこうなってしまったんだろう。

 

たった一人の女のせいで、永遠に思えた僕等の友情はなぜこうも儚く引き裂かれてしまったんだろう。

オザケンと小山田もこんな心境だったのだろうか。

 

かくして口論は激化の一途をたどり、もはや互いの人格否定も含めてドン・フライVS高山戦並にノーガードの殴り合いが続いた(※口だけ)。

 

(もうコイツとの仲は一生修復できないだろう)

 

悲しいが、僕は自分の中でそう折り合いをつけ始めていた。

こんな些細なことで親友を失うことになるとは。

 

そんなことを思っていると、Aの母親が手土産の菓子を持って帰ってきた。

 

高貴な家庭の奥様らしく「みんなで食べましょう」と、2階のAの部屋にいた僕等に向かって、状況も知らずに呑気に呼びかけてくる。

 

冗談じゃない、勘弁してくれ。

今のこの険悪な空気の中で、僕とAが仲良くおやつなど食える訳がない。

Aを見るとどうやら同じ心境のようだったが、そこでAは控えめにこう言った。

 

「一応見るだけ…見にいく?」

 

依然その顔からは闘気は消えていなかったものの、意外な提案に僕は思わず、

 

「お、おう…一応な。買ってきてもらって悪いし、顔くらい見せねぇとな、」

 

と返した。

 

 

そして数十分後。

僕とAは仲良くおやつを食っていた。

高級洋菓子に舌鼓を打っているうちに桜の話題は空中で霧散し、食後には愉快にスマブラに興じた。

 

人より多く屁理屈を垂れたところで、しょせん当時の僕らはどこにでもいる高校生のガキだったのだろう。

そんな僕らを知ってか知らずか、桜はいつまでも静かに微笑んでいる。

 

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高校生当時の僕等の事を、後輩キャラという設定どおり「先輩♪」と呼んでくれた桜だが、その後こちらが一方的に歳をとり続けたせいで、今やその差は一回り近くにもなってきた。

 

それでも桜は、いつまでもレモンの弾けない僕等のことを変わらず「先輩♪」と呼び続けてくれる。

 

最後に、互いを許し合えなかったかつての僕等に向けつつ、この曲を紹介することでブログを締めようと思う。

 

曲は、間桐桜(cv下屋則子)で「笑顔ひとつで」。

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P.S.

 

Fate」シリーズについては大人気による派生に次ぐ派生で今や種類が多すぎて、初見の方は混乱するかもしれませんが、基本的には「Fate/stay night」と「Fate/Zero」を見ておけばいいと思います。

 

ちなみにアニメは過去複数の会社により制作されており、昔の「DEEN」版はやや出来が悪いので、できれば最近の「ufotable」版を見ることをオススメします。

 

詳しくはこの動画でほぼ分かるので興味あればぜひ!

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最後に、そんな桜がメインヒロインを務める通称「桜ルート」こと「Heaven's feel」編は現在映画として制作されており、このブログを書いている2018年5月時点では、全3章のうち1章目のみ公開されています。続編も鋭意制作中とのことなのでお楽しみに。

 

上の動画でも言っている通り、第1、第2ルート視聴後でないとやや話に置いて行かれるとは思いますが、絶対面白いと自信を持って言い切れるのでよければ色々調べて見てみてください。

 

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では、ここまでお付き合いありがとうございました。

ほな!